蝶を愛でる家《広島市/注文住宅》
緑と四季に住まいを調和させた蝶を待つ暮らし
自然を身近に感じながら営みとのバランスを育む
古い屋敷や蔵などが立ち並ぶ路地を歩いていると、山の緑と庭からあふれる草木に包まれ、洋風の瓦がひときわ目を惹く建物が姿を見せます。
ヨーロッパのいち地方にも溶け込みそうなその趣は、不思議と界隈の家並みにも馴染んでいます。
それは、歴史と自然を敬ってきた土地の風土と、ニュートラルな穏やかさを持つご夫婦のお人柄がそう感じさせるのかもしれません。
「シンプルなお家にしたかった」。
そう語るご主人は、約40年前、この場所で暮らしていました。
庭があり、虫採りなどもしていた実家での思い出を、さらに緑が生きる心地よい住まいへとよみがえらせたご夫婦。
憧れのひとつには、ある写真家が作った『オーレリアンの庭』がありました。
オーレリアンとは“蝶を愛する人”
里山らしい魅力にあふれるその庭を目指し、ご夫婦は蝶の集まる花を季節ごとに植え、蜜を求めに訪れる姿を楽しまれているそう。
また、もみじの木に据えたエサ箱には、冬にお腹を空かせた鳥がやってきます。
シジュウカラ、メジロ、ヤマガラと種類は様々。
鳥だけでなく、タヌキやキツネの鳴き声、スタジアムの野球の歓声が風に乗って届くことも。
そんな自然と共生しながら感覚に身をゆだねる生活を、一番のお気に入りだという庭を望むダイニングからの景色がもたらしてくれます。
風やさざめきが空間を舞う ほどよい抜け感
家づくりでは多くの展示場を見てまわりました。
外構から家の中へと続く雰囲気も参考にしながら、自分たちに合った造りやカタチを探す作業は楽しかったそう。
家の隅々にも、シンプルな中にこだわりを詰め込みました。
蝶をあしらったガラス製のペンダントライトは玄関のアクセント。
家づくりで特に嬉しかったことは、やりたいことやイメージが決まっていたご夫婦の希望を
「どうすればうまくいくか一緒に考えてくれた」山根木材の姿勢だそう。
「山根木材さんは、希望を優先しながらもアドバイスを的確にくれ、一緒にたくさん悩んでくれたんです」。
テレビボードや棚を床から浮かせて造り付けにしたかったため、当時はまだ珍しかった3Dソフトを駆使して、細やかに仕様を確認していった作業もそのひとつ。
床から浮かせることによって、ほどよい抜け感がプラスされました。
風の抜けるリビングで、吹き抜けに飾ったモービルとロッキングチェアの揺れが、穏やかな時間を演出します。
1階と2階の屋根がつながる大屋根は、外観に大胆でゆったりとした印象を与えるだけでなく、勾配天井にすることでダイナミックで開放感あふれる空間となっています。
ヨーロッパのインテリア雑誌を読み、北欧雑貨のお店でも見かけていたヘリンボーンの床は、ずっと奥さまの憧れでした。
家を建てる当初から、「できればやりたい」とリクエスト。
天然木ならではの色合いが風景を作る床のおかげで、経年変化も楽しめる味わい深いリビングとなりました。
ナチュラルテイストの家具をメインにコーディネートしたインテリア、ご主人は好きな本を並べる棚、奥さまは趣味の部屋にもなるランドリールームなど、それぞれの安住をちょうどよく配置しました。
階段を上がった先の壁一面を使ったご主人の愛読書を並べる本棚には、本だけでなく素敵な小物がたくさん飾ってあります。
洗濯機を思い切って2階にあげ、室内干しもできるランドリールームにし、奥さまの作業をひとまとめに。
「キッチンでは集中して、こもりたい」と奥さま。
あえて対面にせず窓側に設置して、窓から見える緑を大切にしました。
こだわりのモザイクタイルは手元を彩ってくれます。
床の間を据え、来客時も活躍する和室。
畳に座り、地面に近い視線で窓から切り取られる庭は、また違った風景を見せてくれます。
あとはやっぱり、外へ馳せる思いが、ご夫婦にとっては暮らしのエッセンスに。
「もっと花を増やして、野菜も育てていきたい。作業小屋を建てる計画もあるんです。」
庭づくりはまだまだこれから。
休日のホームセンター巡りも楽しさを増すばかりです。